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東京地方裁判所 昭和63年(ワ)4538号 判決

原告

橋本義雄

被告

高千穂化学工業株式会社

右代表者代表取締役

江上正

右訴訟代理人弁護士

野口敬二郎

主文

原告の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  原告が被告との間に雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

二  被告は原告に対し、三六三万二五〇六円及びうち二二万九九四八円に対する昭和六二年四月二九日から、うち二二万九九四八円に対する同年五月二九日から、うち二二万九九四八円に対する同年六月二九日から、うち二二万九九四八円に対する同年七月二九日から、うち二二万九九四八円に対する同年八月二九日から、うち二三万二四四八円に対する同年九月二九日から、うち二三万二四四八円に対する同年一〇月二九日から、うち二三万二四四八円に対する同年一一月二九日から、うち二三万二四四八円に対する同年一二月二九日から、うち八五万八一三〇円に対する同月一六日から、うち二三万二四四八円に対する昭和六三年一月二九日から、うち二三万二四四八円に対する同年二月二九日から、うち二三万二四四八円に対する同年三月二九日から各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  被告は原告に対し、昭和六三年四月から毎月二八日限り二三万四九四八円を支払え。

四  被告は原告に対し、六〇万六六六〇円及びこれに対する平成元年三月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告がその従業員であった原告を解雇したところ、原告はこの解雇の効力を争い、被告に対し、雇用契約関係の存在確認を求めるとともに、この雇用契約の存在を前提としてこの契約上の賃金請求及び解雇が不当であるとして不法行為に基づく損害賠償請求をなしている事案である。

一  争いのない事実

1  原告は、昭和五九年一二月一三日、被告に雇用され、被告本社試作二係において機械工として勤務していた。

2  被告は原告に対し、昭和六二年四月一三日、解雇する旨の意思表示をした(以下「本件解雇」という)。

被告の主張する解雇事由は左記のとおりである。

原告は、勤務成績が悪いだけでなく、事毎に上司である本社試作一係長柳田に反抗した。このため、被告は、本社試作二係長田平繁雄に原告に対する監督をさせることとし、昭和六二年一月五日、原告に対し試作二係勤務を命じ、原告は、同日から同係で勤務するようになった。しかし、原告の勤務成績は依然として悪く、同係長の指導にも従わず、反抗的態度に出ていた。同係長は、被告町田工場(東京都町田市〈住所略〉所在)での製品の製造にも従事していた関係で、同工場で長時間勤務していたことから、被告は原告に対し、同年四月八日、同月九日から被告町田工場において勤務することを命じた。しかし、原告は、被告が再三に亘り同工場に出勤するよう命じたにもかかわらず、同工場に出勤せず、従前の職場に出て他の従業員の作業を妨害し、上司らが注意してもこれを無視した。そこで、被告は、同月一三日、就業規則九条一号「遅刻、早退、欠勤、しばしばにして注意または戒告を与えるもこれを改めないとき」及び同条五号「他の従業員に著しく悪影響をおよぼす者」により本件解雇をなした。

二  争点

本件解雇の有効性にある。

原告は、本件解雇は被告が原告の健康を無視してなしたものであり、また、原告が渋谷労働基準監督署に対し、昭和六一年四月一二日、原告の被告における職場の微振動につき労働環境改善の申入れをしたこと等を嫌悪してなしたものである旨の主張をしている。

第三争点に対する判断

一  本件解雇事由の有無について

証拠(〈人証略〉)によると、被告の主張する本件解雇事由の存在と原告に対し町田工場において勤務するように直接伝えたのは総務課長江上寿であるが、これに対し原告は、本社で採用されたのであるから町田工場に行く必要はないと述べたこと、就業規則九条は「従業員が次の各号一に該当するときは三〇日前に予告するかまたは三〇日分の平均賃金を支給し即時解雇する。」と定め、そして、同条一号には「遅刻、早退、欠勤、しばしばにして注意または戒告を与えるもこれを改めないとき」と、同条五号には「他の従業員に著しく悪影響をおよぼす者」と各定めていることが認められる。

二  本件解雇の効力について

前記認定の本件解雇事由は就業規則九条一号及び五号に該当するということができる。

そうすると、本件解雇は、これが権限を濫用してなされた等の無効事由が存しない限り有効ということができる。

ところで、原告が渋谷労働基準監督署に対し原告の主張するような申入れをし、同署係官が昭和六一年四月ころ原告の職場において原告の訴えるような事実があるか否かを調査したが、そのような事実を認めることができなかったことは(人証略)の証言により認めることができる。

しかし、被告が原告が右申入れをなしたことを嫌悪して本件解雇をなしたことを認めるに足りる証拠はなく、また、原告の健康状態が原告の主張するような状態であったこと及び他に本件解雇を無効とすべき事情も認められない。

よって、本訴請求はその余の点について判断を進めるまでもなく理由がないから、いずれもこれを棄却することとし、主文のとおり判断する。

(裁判官 林豊)

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